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最高裁判所第三小法廷 昭和54年(あ)965号 判決 1979年12月25日

主文

本件上告を棄却する。

当審における未決勾留日数中一二〇日を本刑に算入する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

被告人本人の上告趣意は、違憲をいう点をも含め、実質はすべて事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。

弁護人櫛田泰彦の上告趣意のうち、憲法三八条三項の解釈の誤りをいう点は、共犯者の供述を右憲法の規定にいう「本人の自白」と同一視し又はこれに準ずるものとすべきでないことは当裁判所の判例(昭和二九年(あ)第一〇五六号同三三年五月二八日大法廷判決・刑集一二巻八号一七一八頁)とするところであるから、所論は理由がなく、その余は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、適法な上告理由にあたらない。

なお、所論にかんがみ、職権により判断すると、刑法九八条のいわゆる加重逃走罪のうち拘禁場又は械具の損壊によるものについては、逃走の手段としての損壊が開始されたときには、逃走行為自体に着手した事実がなくとも、右加重逃走罪の実行の着手があるものと解するのが相当である。これを本件についてみると、原判決の認定によれば、被告人ほか三名は、いずれも未決の囚人として松戸拘置支所第三舎第三一房に収容されていたところ、共謀のうえ、逃走の目的をもつて、右第三一房の一隅にある便所の外部中庭側が下見板張りで内側がモルタル塗りの木造の房壁(厚さ約14.2センチメートル)に設置されている換気孔(縦横各約一三センチメートルで、パンチングメタルが張られている。)の周辺のモルタル部分(厚さ約1.2センチメートル)三か所を、ドライバー状に研いだ鉄製の蝶番の芯棒で、最大幅約五センチメートル、最長約一三センチメートルにわたつて削り取り損壊したが、右房壁の芯部に木の間柱があつたため、脱出可能な穴を開けることができず、逃走の目的を遂げなかつた、というのであり、右の事実関係のもとにおいて刑法九八条のいわゆる加重逃走罪の実行の着手があつたものとした原審の判断は、正当である。

よつて、刑訴法四〇八条、一八一条一項本文、刑法二一条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(環昌一 江里口清雄 高辻正己 横井大三)

被告人本人及び弁護人櫛田泰彦の各上告趣意<省略>

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